彼があたしを抱くとき

大房岬のつけねのあたり、
ひときわ緑の色の濃い部分に白い火が見えた。

あの下あたりがあたしの家のはずだ。

耳もとで、母がときどき和服を仕立てる手を休めて
「なんのために
生きてるんだか……」とつぶやいている、
あの声を聞いたような気がした。

秀太との関係が露見してから、母はそうつぶやくようになった。


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