彼があたしを抱くとき

ぎこちなく、上着をとる。

「ワイシャツも」

投げやりでいて、どこか寂しげな声だった。

シャツのボタンを丁寧にはずす。

胸もとによどんでいた、暖かい空気がポッと逃げ出して、
つめたい空気にふれ、どきりとする。

「寒い」

小さな声でつぶやき、シャツは脱ぎ捨てずに、
両腕をそっと組む。


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