彼があたしを抱くとき

「俺、どうしても、すずを大切にしてやれないんだよ。すずに手が出ちゃうんだ」

よわよわしい日射しをあびて、イチョウの枝がカリカリふるえている。

「なんで泣くの」

気付いた岸谷のそれは、問いかけというより、つぶやきだった。

上着を肩にかけてくれる岸谷の腕の中へ、声をあげて泣きふした。

岸谷はとまどった表情で、あたしを泣くままに、腕の中へかかえていた。


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