彼があたしを抱くとき
「こんな時、篠原ならどうするかな」
背をあたしにむけて、中空を見つめながら、自問自答する。
岸谷の視線が、三日前よりさらに葉の散ったイチョウの梢をさしている。
「松本ならなぐって帰ってそう」
あたしが望んでいるのは、そんなことじゃない
望んでいるのは抱きしめてもらうことだ。
泣きだしてしまった日から三日、考えつづけた。
なんとかあたしなりにかっこのつく、ピリオドの打ち方として、
あたしは岸谷に抱きしめてもらって、キスでもしてもらい、
悲しさと甘美さのいりまじった思い出に、すり替えたいのだ。