泣いて、笑って強くなれ
陽向は少し驚いた顔をする。
「おばさんがいってたでしょ?
人間、泣けるってことは笑えるんだよ」
私がそう言うと陽向は、少し目を見開いてから、ゆっくりと口角をあげた。
ねぇ、陽向。
いまあなたはあの頃と一緒な顔をしているよ。
アルバムの中のあなたと一緒な顔をしている。
「私ね、ずっとずっと、逃げてた。あなたからも自分からも」
陽向はなにも悪くない。
悪いのは私。
私があまりにもぐだぐだしてるから、陽向にも迷惑かけちゃったね。
ごめんね。
私の少し長めのいいわけをどうか聞いてほしいの。
「おばさんが死んでから苦しかった。辛かった。死にたいと何度思ったかわからない。
幼いながらも抱いていた陽向への恋心でさえ、事件のあとは鬱陶しいもの以外のなんでもなかった」
陽向は私の初恋だった。
だけど、あの事件からこの感情を押し殺した。
好きになってはいけない。
そう思うようになっていった。
いいや、違うね。
渚、あなたは少なくとも私の本心を見抜いていた。
________『……優愛。もう、自分に嘘つくのはやめなよ』
正直に話すとするよ。
「 だけど違う。そんなの間違ってた。陽向から私、逃げてた。
あなたに嫌われたくなかったら。おばさんがどうだとか、自分のなかで理由つけて、逃げてたの」
本当は分かってた。
おばさんは私のことおこるはずがないって。
人一倍お人好しなあの人が、おこるはずなんかない。
きっと、私のいまの姿をみたらおばさんは笑って頭を撫でてくれるだろう。
きっと、あの笑顔で私の名前をよんでくれるだろう。
だけど、陽向がこの世でたった一人の母親を失ったという悲しみは底知れない。
だから、私は自分のなかで真っ当な理由をつけた。
おばさんの墓参りにいけないのも、本当はばさんがどうとかじゃない。
陽向と会う可能性があるから。
自分の母親を死なせた私が、墓参りに来ているところなんて陽向はみたくないと思ったから。
「……ごめんね、陽向」
ごめんなさい。
あなたから逃げてごめんなさい。
あの時、言えなかった。
おばさんの亡骸の前にたっているあなたにこの言葉をいったら、全てが壊れてしまいそうだったから。
どうしても言えなかったの。
だから、遅すぎるなんて言われても仕方ないけど、言わせてほしいの。