泣いて、笑って強くなれ
左を見れば点滴。
右を見れば立っているお母さん。
うん。
大体状況は判断できた。
ここは私の家の近くにある比較的小さな病院。
駅で倒れた私を誰かがここに運んできたのだろう。
「優愛、大丈夫?」
お母さんがまだ心配そうにこちらを見てくる。
「うん、平気」
多分、ただの寝不足だったのだろう。
今は頭痛もしないし、視界もちゃんとしている。
私のこの答えに安心したのか、お母さんははぁーっと息を吐いた。
そして、あ!っとなにかを思い出したように目を見開く。
「そうそう。優愛が倒れてるの発見して、救急車とか呼んでくれたの、あなたと同じ高校の女の子なの。
ちゃんとお礼いっときなさいよ?」
お礼いっときなさいよって……。
「……誰かわかんなかったらお礼なんていいようないじゃん」
私がそういうと、お母さんは、そっかそっか!といって、笑って私に何かを差し出した。
「その子の忘れ物。ついでに返してあげて」
なんだろうと思って手に取ってみると、それは生徒手帳。
そっとなかを開くと、私のよく知る人物の名前がそこにはあった。
『マジありえない。アイツまじ最近調子乗りすぎだし』
『マジそれ。ってかあの話し方?ブスの癖に色目使ってんじゃねぇよ』
そう、紗英と里咲がよく悪口の標的にしていたある女の子。
そして
『私もうざいってずっと思ってたんだよね』
私も二人に乗じて、数々の暴言を投げ掛けた女の子。
佐伯 渚(サエキ ナギサ)の生徒手帳を私は今持っている。
「その子ね、救急車に一緒に乗ってきてくれて、私がここにくるまでずっとあなたのそばにいてくれたのよ」
え、
嘘だ。
そんなはずない。
きっと、佐伯さんは私のことを嫌いなはずだ。
だって、佐伯さんが教室にいるとわかっていながら私たちは、佐伯さんに聞こえるような大きな声で悪口を言っていたのだから。