泣いて、笑って強くなれ


空が高い。

まだ五時だと言うのに、少し空が赤くなってきている。

からすの声が聞こえる。

そうか。

もう、夏は終わったのか。



_____ガチャ



そこへちょうど、屋上の扉が開くおとがした。


「ごめんね。急に呼び出して 」


「……」


向こうは何も言わずにこちらをただじっと見つめてくる。

その、何にも動じなさそうな態度がきっと、紗英たちをイラつかせていたのだろう。


「あのさ、これ」


向こうがしゃべらないなら私がしゃべるしかない。

私は手に持っていた佐伯さんの生徒手帳を見せつけた。


「……」


それでも、何も言わない。

私は仕方なく、自分の方から相手に近づいて、佐伯さんの目の前に生徒手帳をもってきた。


「これ、あなたのでしょ?」

「……」

「私の病室にあなた、置き忘れたんじゃないの?」

「……」


そこまでしても無言を貫く佐伯さん。

正直、私の怒りはそこまで来ていた。

確かにさ、普段いじめられているやつからそんなことされたら戸惑うと思うよ?

だけど、あなただって、私の病室来て、意味不明な伝言残されたらさ、こっちだって戸惑うに決まってるじゃん。


「あのさ」

「……」

「うんとか、すんとか…「鮎沢さんは……鮎沢さんです」


急に私の言葉を遮って、鮎沢さんが口を開いた。

それに驚いて私は思わず、めを見開いたまま静止する。


「鮎沢さんは、鮎沢さんです。他のだれでもありません」


真顔で同じことを再び言う、佐伯さん。


「佐伯さん、なにいってんの?」

「私が言えるのはこれだけです。学生証ありがとうございました」


佐伯さんはそういって、一方的に学生証を受け取って屋上を立ち去ろうとする。

え、ちょっとまてまて。

私の質問に何一つ答えていないまま、何去ろうとは……!

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