泣いて、笑って強くなれ
「あ、親父、わりわり。ぼーっとしてたら時間たってた」
親父が珍しく、急いだ様子で俺を見た瞬間こちらに駆け寄ってきたもんだから、俺はとっさにそういって笑ってごまかした。
「あ、親父さんっ!うちの父ちゃんがいつもの酒頂戴だって~」
俺の後ろから、悠里がのんきな様子でそういうのが聞こえる。
「ああ、酒ならどんだけでもやる。それより、陽向。お前今すぐ東京にいけ」
「は?んだよ、急に。何で東京なんて……」
怒ってないのかと、安堵する反面、突然の東京という言葉に驚く。
「優愛ちゃんの記憶が……戻りかけてる」
「……っ!」
息が止まるかと思った。
驚いたとかそんなんじゃなくて、
「……親父、金貸してくんね?」
「わかってる。今すぐ用意しろ。港の方にはもう連絡してある」
焦りと、不安と、そして恐怖。
それだけだった。
「わかった。サンキュ、親父」
俺はそういって、すぐさま家の中を駆けずり回って荷物をまとめ家を飛び出した。
「陽向っ!待って、私もいくっ!」
家を飛び出した瞬間、隣に誰かがならんで走っていると思ったら悠里だった。
「はぁ?お前、金あるのかよ」
「あるよ。陽向と違って貯金あるし」
悠里はそう鼻で笑って俺の隣を走る。
俺の家から港までは徒歩10分ってとこ。
走れば5分だ。
俺は港で親父から金を借り、悠里と船に飛び乗った。
俺らが飛び乗った瞬間出発したこの船。
「ねぇ、東京までどれくらいでつく?」
悠里が海を見ながらのんきにそう聞いてきた。
全力疾走した体にはこの冬の海風は気持ちがいい。
「んー、わかんねー。明日には着いてればいいな」
「はぁ?親父さんに東京までの道のりとか聞いてこなかったわけ?」
「あの場で聞いてる余裕あったと思うのかよ」
「……だから、陽向はいつまでもバカなんだよ本当に……。まぁ、本州までいったら誰かに聞けばいいか」
「そうしようぜ」