揺れる、黒。
「…………北原さん、」
僕は、君が。
「なに、小出くん?」
僕は、君が。――なんて。
いつも、いつだって、何をしても、何を考えていても、北原さんのことだけで。
苦しいのに。言ってしまいたいのに。
どうして言えないんだろう。
自分がどんな表情をしているのかはわからなかったけれど、顔を隠したくて、僕はカメラを構えた。
ファインダーの向こうで、北原さんが晴れやかに笑う。
僕も彼女に笑いかけて、そっとシャッターに人差し指を乗せた。
僕は、君が――。とは、今はまだ言えないから。
代わりに僕は、今の君を残すために、こう言うんだ。
「笑って」
-fin-