極甘上司に愛されてます
「……写真のこと、まだ引きずってんのか?」
濃い灰色の夜空を見上げながら、編集長が言う。
「はい……でもそれだけじゃなく、最近ちょっと失敗続きなので……仕事一本に絞ろうかと」
恋人を呼び出すメールを上司に送るって、実際やってしまった今でさえ、信じられなすぎる失敗だし……
「別にいいんじゃねぇの? ……両方、うまくやれば」
ものすごく他人事な感じの、軽いトーンで言う編集長。
「……私がそんなに器用じゃないこと、上司なんだからよく知ってるじゃないですか」
「まぁ、器用な方ではないな」
「ほら……」
少し不貞腐れながら前を向くと、雨は少し小降りになっていた。
もう少し弱くなれば、傘がなくても帰れそう。
「でも、俺は北見の書いた記事が一番好きだけどな」
「……え?」
きょとんとする私に、編集長は意味ありげに笑う。
「いつもお前、限られた文字数めいっぱい使って表現するだろ。この街の歴史、美味い店のレポート、消防隊の訓練風景、花火大会の特集……」
「そう……でしたっけ」
文字数のことなんて、“はみ出ないように”くらいの意識しかしてない。
勤め始めて間もない頃は決められた文字数で書くのに苦労したものだけど、慣れてしまえば、なんとなく感覚で文章がつくれるようになっていた。
……器用じゃないから、それなりに時間はかかるけど。