極甘上司に愛されてます
『幼い頃のあなたを幸せにしてやれなかったぶん、今の透吾にはちゃんと幸せになって欲しいのよ。いつも私とお父さんの言い争う姿を見ていたでしょう?
お互いに働いていたら、いつの間にか忙しさで相手を思いやる気持ちを忘れてしまうの。そんな結婚生活を、自分の子どもにはして欲しくない』
自分たちの後悔。
それをわが子に味わわせたくないという気持ちはわからないでもないが……押し付けはゴメンだ。
『……俺はああはならない』
『私たちだって最初はそう思って結婚したのよ? だから透吾、結婚するなら相手の方には専業主婦に――』
『……話になんねぇな。親父も同じ考えか?』
『ええ。透吾がこの家から逃げるように出て行ってから、私たち仕事の仕方を見直すようになって……それから、お父さんとよくあなたのことを話すようになった。それで決めたのよ、透吾が幸せになるために、お嫁さんになる人には専業主婦になってもらおうって』
……勝手にも程がある。
息子のためを思うんなら、息子の選んだ相手の意思を尊重しろよ。
だいたい、子どもの頃は俺を放っておいたくせに、今になって干渉されても言うことを聞く気になんかなれない。
怒りを通り越して呆れた俺は、もう何を話しても無駄だと思い、一方的に言う。
『……その辺はこっちで彼女と話しておく。とにかく会ってみてくれ。来週末の予定は?』
『日曜日は何もなかったはずよ。……透吾、それまでにちゃんと説得しておいてね?』
返事をする気にず、耳に当てていた携帯をゆっくり話して通話を切った。
……こんな調子では、留美と会った時にも同じことを面と向かって言い出しそうだ。
けど、もうとっくに大人なんだし、親の了解なんて得られなくても問題はない。
俺は俺の手で留美を幸せにすればいい。
そう心に決めた俺は、両親の勝手な思惑を留美に話すことはしなかった。
つまらないことで彼女を不安にさせたくない。
その一心で。