極甘上司に愛されてます
そうして実家を訪れる当日。
緊張した面持ちの留美は、いつもなら派手で凝ったネイルを施してある指先に、その日は透明なエナメルしか塗っていなかった。
俺はそこまで気にする必要はないと思ったけど、“透吾の両親にちゃんと認められて結婚したい”と言って、そんなシンプルなネイルにしてきた彼女の気持ちは素直に嬉しかった。
そんな留美の人柄なら、両親も認めてくれるかもしれない。
俺はそんな淡い期待を抱いていたのだが――。
『え……専業主婦、ですか?』
実家の静かなリビングに、戸惑う留美の声が響いた。
両親はよりによって、留美が自己紹介がてら自分の職業と、“いずれ自分の店を持ちたい”という夢をはにかみながら語った直後に、あの話をしたのだ。
仕事にかまけて俺に可哀想な子供時代を過ごさせてしまったこと……
そのことを悔やんで、俺の結婚相手に専業主婦を望んでいることを。
何度聞いてもため息しか出ない勝手な言い分にため息をついて、俺は間に割って入った。
『……だから。留美にその気はないし、俺だって仕事を続けて欲しいと思ってるんだ。当人たちの意見が一致してんのに、余計な口を挟まないでくれ』
俺がそう言っても、留美の瞳は不安げだった。
そんな顔をさせてしまったのは付き合ってから初めてのことで、俺の胸にも不安が生まれた。
『でもねぇ透吾、私たちは何も意地悪で言ってるんじゃなくて』
『……ああ。自分たちの経験から助言してるんだ。お前には幸せになって欲しいから』
自分たちの意見が正しいと信じて疑わない両親。
その態度に激しく憤りを感じた俺は、留美の手を無理矢理取って座っていたソファから立ち上がった。