極甘上司に愛されてます
『……もう行こう。頭の固い親の許可なんかいらねぇ』
『でも、透吾……!』
気まずそうに両親のいる方をうかがう留美を引っ張るようにして、俺は実家を後にした。
……留美にこんな嫌な思いをさせることになるなら、連れて来なければよかった。
あんな両親でも、留美なら認めてくれるんじゃないかと、心のどこかで期待していた自分に腹が立つ。
苛立ちと、留美に対する申し訳なさと、自分の無力さと――そんな負の感情を抱えたまま、留美の手を引いて大股で歩いていた俺。
けれど途中で留美の方がぱっと手を離したので、その足が止まった。
『……留美?』
『あのさ……透吾』
小さく俺の名を呟いた留美。静かな住宅街の真ん中で、俺は彼女と向かい合う。
うつむきがちな彼女の表情は、当たり前だけど明るいものではない。
『……悪かった。あの人たちは昔から俺の気持ちを無視するようなところがあって……』
『……ううん、そうじゃないよ』
『そうじゃない?』
留美は顔を上げ、微笑を作った。笑っているのに泣き出しそうな、複雑な微笑……
『ご両親は、透吾の幸せを願ってるのよ……本当に、心から』
『……留美まで何言うんだ。もしそうだとしても、結婚相手は専業主婦に――なんて極端な発想されたってこっちは困るだろ。……現に、留美を傷つけた』
後悔を滲ませた俺の言葉に、彼女はゆっくり首を横に振った。
『私は……よかったよ。本当のことが聞けて』