極甘上司に愛されてます
……本当のこと?
その言葉と妙に落ち着き払っている留美の様子に、俺は少しの違和感を覚えて聞き返す。
『どういう意味だ……?』
『……私。透吾と結婚したら、絶対幸せになれると思った。好きな仕事をやりたいようにできて、疲れたら透吾がいてくれて。……でも、私。透吾の幸せのことまで、考えてなかったの』
俺の幸せ……?
そんなの、留美が考える必要はない。
留美が夢を叶えるのを一番近くで見ていること。いつでも留美の支えになること――それが俺の幸せなんだから。
『初めて会った時に言ったろ。俺は仕事をしてる時の留美に惚れたんだ。だから、結婚したって今のままの関係で上手くやれば――』
『……私。もう、それができない』
『……え?』
……何を言ってるんだろう。いくらうちの親に理不尽なことを言われたからって。
俺の目には、今日実家を訪れるまでの留美と、目の前に立っている留美が、別人に見えた。
『透吾のご両親の言っていることを無視して、結婚したとしても……私、絶対心のどこかに引っかかる。私といることが、本当にあなたの幸せなのかって』
『留美、よく考えろって、俺は――』
彼女の腕をつかんで自分の方に引き寄せようとすると、その腕を咄嗟に振り払われた。
その瞬間、俺の心に小さなヒビが入ったような気がした。
俺は、自分の彼女――ましてや結婚まで考えていた相手に拒絶されたのだ。
行き場を失くした右手をゆっくり自分の方へ戻すと、留美を正面から見れずに視線を足元に向けた。
『ごめんなさい……透吾のことは好き。もっと長く、一緒に居たかった。でも、こんな風に心が乱れることがいやなの。だから恋愛を避けてきたの。……透吾とならうまくやれるって思ってたけど、やっぱり無理みたい』