極甘上司に愛されてます
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俺と北見以外誰もいない編集部。
北見がせっせと写真の整理をしている間、俺は自分のデスクでたまっていた雑務をしながら、ぼんやりと過去に思いを巡らせていた。
留美との別れは結構なダメージで、それからしばらく、誰のことも好きになれなかった。
だが、北見が入社してきて、留美とは違うタイプの不器用さで仕事と恋との間を右往左往しているのを見ていると、心が和むのと同時に、心臓がつねられたような痛みを感じるようになって。
……もしかして、これは。と、不確かながら、自分の気持ちに気がついた。
とはいえ俺と北見は上司と部下だし……アイツには彼氏がいるし、と。
芽を出し始めていた気持ちは見て見ぬふりで、これ以上それが育たないようにと大人の分別で押さえつけていたはずが。
『しばらく、恋愛はお休みして仕事に集中しようかなって……』
あの雨の日。間違って呼び出された駅ビルの前。
……また。また、俺の目の前で、恋愛を諦めようとしているヤツがいる。
留美の時は、俺も諦めてしまった。
彼女の意志を尊重したら仕方のないことだと、自分を納得させて。
だけど、また同じことの繰り返しでいいのか?
留美との別れから時間の経った今、あの決断はあまりに消極的すぎたと思っている。
今の俺なら、もっと上手くやれるんじゃないか。
恋と仕事と、両方求めたっていいと証明できるんじゃないか。
そう思ったら、北見は俺の恋人ではないのに、どうにか気持ちを楽にしてやりたくて。
幸せになって欲しくて。
『別にいいんじゃねぇの? ……両方、うまくやれば』
……半分は自分に言ってるようなものだったが、俺は彼女にそんな言葉を掛けた。