極甘上司に愛されてます


……いくらイケメンでも、なんて寂しい図だろうか。

私は編集長が真顔で、片手にソフトクリームを持ちながらメリーゴーランドの馬にまたがり、周囲の人に怪訝な目で見られる姿を想像して、それはマズイなと直感で思う。


「……お付き合い、します」


自分の上司が変な目で見られるのは困る。

……というのは建前で、ホントは多分、彼の言う通り……独りでいたくないんだ。


「よし、決まりだな。じゃあ支度できたら連絡くれ。バイクで迎え……は嫌なんだったな。じゃあ待ち合わせは駅に――」

「バイクでいいです!」


もうこうなったらとことん楽しんでやろう。
苦手なジェットコースターにだって乗ってやる。
いくら叫んでも、編集長の前ならもう恥ずかしいことなんてないし。

……できるだけ。日常から離れたいから――。


「……わかった。お前がそう言うなら。ちょっと仮眠してからでもいいか?」

「はい、もちろん。じゃあ、起きたら連絡ください」

「ああ。遅いなと思ったら電話で起こしてくれ」

「了解です」


なんかこれ、デートの約束に聞こえないこともない……?

いやいや、編集長はただ、私の失恋癒し旅に付き合ってくれるだけだ。

……でも。


「じゃあ、またあとでな」

「はい……あとで」


会社を出てお互いの帰る方向に別れると、私は後ろを振り返って彼の頼もしい背中を見送る。


……まさか、今日はキスされない、よ、ね……?


そんな疑問に頭の中を支配されて、私はしばらく会社の前に立ち尽くしていた。


< 110 / 264 >

この作品をシェア

pagetop