極甘上司に愛されてます
……いくらイケメンでも、なんて寂しい図だろうか。
私は編集長が真顔で、片手にソフトクリームを持ちながらメリーゴーランドの馬にまたがり、周囲の人に怪訝な目で見られる姿を想像して、それはマズイなと直感で思う。
「……お付き合い、します」
自分の上司が変な目で見られるのは困る。
……というのは建前で、ホントは多分、彼の言う通り……独りでいたくないんだ。
「よし、決まりだな。じゃあ支度できたら連絡くれ。バイクで迎え……は嫌なんだったな。じゃあ待ち合わせは駅に――」
「バイクでいいです!」
もうこうなったらとことん楽しんでやろう。
苦手なジェットコースターにだって乗ってやる。
いくら叫んでも、編集長の前ならもう恥ずかしいことなんてないし。
……できるだけ。日常から離れたいから――。
「……わかった。お前がそう言うなら。ちょっと仮眠してからでもいいか?」
「はい、もちろん。じゃあ、起きたら連絡ください」
「ああ。遅いなと思ったら電話で起こしてくれ」
「了解です」
なんかこれ、デートの約束に聞こえないこともない……?
いやいや、編集長はただ、私の失恋癒し旅に付き合ってくれるだけだ。
……でも。
「じゃあ、またあとでな」
「はい……あとで」
会社を出てお互いの帰る方向に別れると、私は後ろを振り返って彼の頼もしい背中を見送る。
……まさか、今日はキスされない、よ、ね……?
そんな疑問に頭の中を支配されて、私はしばらく会社の前に立ち尽くしていた。