極甘上司に愛されてます


いちおう受け取って顔を上げると、なぜか編集長の頭の上にもふさふさとした灰色の毛が風に揺れていた。


「……オオカミ?」


ぴんと立った耳に、ちょっと目つきの悪い黄色の瞳。

顎の所にマジックテープが付いているみたいだけど、それは留めておらず、耳の脇にだらんと垂れている。

ま、まさか編集長がかぶりものをするとは……!

ん? てことはこのピンクのやつも、もしかして……

おそるおそる持ち上げてみると、片耳をたたんだ可愛いピンクのウサギ帽がお目見えした。

えーと。これだけ見れば可愛いけど、これを私にどうしろと……?


「ここのマスコットキャラのうさぴーだそうだ」

「……うさぴー。ですか」

「んな冷めた目で俺を見るなよ。こっちはうるぴー。二人は仲良しなんだぞ?」

「……へ、へえ」


そんなばかな……ウサギとオオカミが仲良しであってたまるもんですか。

食物連鎖の法則を無視したキャラクターに引きつった笑みを浮かべる私。

そのまま帽子をかぶることなく眺めるだけの私にに痺れを切らしたのか、無理やり手から帽子を奪い取った編集長が、私の頭にそれをぼすんと被せてしまった。


「ちょっ……!」

「……今日は楽しむんだろ? これ被ってれば、いやでも浮かれ気分になれる」

「いや、被らなくても充分……」

「つべこべ言わずに歩く。混んでんだから、早くならばないと何も乗れねぇ」

「わ!」


強引なオオカミさんは、私の手をぐい、と引いて大股で歩き出してしまった。

な、なんかこんな風に手を繋がれると、非常にデートっぽさを意識してしまうんだけど……!

さっきからどうもおかしい鼓動のリズムが、いっそう乱れるのを感じる。


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