極甘上司に愛されてます
仕事の上で日ごろから迷惑を掛けているだけでなく、今日はプライベートでも私の空回りに付き合わせてしまったというのに、責めるどころか励ましてくれるなんて……
編集長の器の大きさが、胸に沁みる。
「私……別れなくてもいいんでしょうか」
「当たり前だろ。だいたいあの写真だって、小林風人がわけのわかんねぇ絵を描くのが悪いんだ。読者の中にだって、逆さまだって気づいた人はそんなにいねぇよ」
芸術的にはすごいものだと言われている小林先生の抽象画だけど、素人にはなかなか理解しがたい複雑さがある。
だから、逆さま写真のことは先生本人に謝って、後日記事にも謝罪文を載せたけれど、一般の人からのクレームは特になかった。
……とはいえ。
「編集長がそんなこと言っていいんですか……?」
「……マズイな。ま、お前が黙っときゃ平気だ。ここだけの話にしとけよ?」
悪戯っぽく微笑んだかと思ったら、私の頭にぽん、と大きな手を乗せた編集長。
……そうか。編集長は、私の気持ちを軽くさせるために……
「ありがとうございます……私を元気づけるために、わざとそんなこと」
「……本心だ。気にするな」
彼のことはもともと信頼していたけれど、今回のことでさらにその気持ちが強くなった気がする。
こんな風に自分を評価して、護ってくれる上司の役に立ちたい。
彼に“いい記事だ”って思ってもらえるものを、これからも作り続けたい。
「なんか……すごいやる気出てきました。編集長のおかげで」
「おお、そりゃよかった。……期待してるぞ」
「はい!」
仕事0、恋100……その割合を変えるには、恋愛を止めるっていう強行策以外にも方法があるのかもしれない。
編集長の言葉に大きく頷いて見せた私は、そんなことを思って雨上がりの夜空を見上げた。