極甘上司に愛されてます
ゆっくりと上がって行く観覧車の中。小さく咳払いを編集長が、濁りのない黒い瞳で私を見つめて口を開く。
「今まで……それに今日一日も、俺はずっと自分のこと抑えてた」
「抑えて、た……?」
「お前には付き合ってる奴がいたし、今は口を開けば“特集記事が終わってからにします”――だし。そういうお前を邪魔する存在にはなりたくなかった」
……これ、って。
普段から言葉を深読みしすぎな私ではあるけど、そうでなくても、彼の言おうとしていることが、なんとなく、ぼんやりと……頭の中に浮かんでくる。
……でも、まさか。私、12コも下なんだよ?
彼のような大人の人から見たら、きっとまだ子供。何より、私たち上司と部下で……
「でも……お前の彼氏だった奴はお前を幸せにする気がなさそうだし、傷ついてるお前のこと、物分かりのいい大人のフリして見守ってんのにも飽きてきた」
私を見つめる編集長の眼差しが、いっそう強さを増す。
観覧車は頂上付近にさしかかっていて、窓の向こうにはきっと綺麗な夜景が広がっていることだろう。
……でも、私にそんなものを眺める余裕はなくて。
ぐらりと椅子が傾いたかと思ったら、私の隣に移動してきた編集長の顔が間近に迫っていた。
「“特集記事が終わったら”――でいい。そうしたら、お前のこと、本気で落としにかかってもいいか?」