極甘上司に愛されてます


……キス、される。

私は目を閉じてそれを受け入れようとしたけれど、鼻先が触れそうになった瞬間……急に気持ちに迷いが生じてパッと下を向いた。


「……どうして……私。恋に負けちゃうんだろう……」


……昨夜は確かに、恋愛と仕事のバランスは逆転していた。

今は恋より仕事。そう思ったから、編集長に一緒にいてもらったはずなのに。

彼の言葉がきっかけとはいえ、あっさり自分の気持ちを認めて目の前の幸せに手を伸ばそうとするなんて、全然成長してない証拠じゃない……


「お前は……また考えすぎてるな?」

「だって……また同じ過ちを繰り返すのかと思ったら……」

「……俺とのことは“過ち”か」

「ち、違います! 悪いのは、私です……」


仕事も好きな人との関係も、上手くやれたら一番いいに決まっている。

だけど、今までの自分を見てきたらそんな自信は全くない。

浮ついた気持ちで仕事をして大きなミスをやらかしたとき、ただの上司から好きな人に変わった相手にそれを見られると思うと……想像しただけで痛々しい。


「俺は……思うんだけどな」


せっかくの甘い雰囲気を壊してしまった私の発言に、編集長は嫌な顔することなく、優しく諭すように言う。


「目の前の何かに集中して必死になるのって……仕事も恋愛も同じだろ? だからその二つはバランスが取りづらいし、お前もこうして悩んでる」


そう……そう、なんだよね。

どっちも、中途半端な気持ちで向き合ったら、どこか綻びが生じて……うまくいかなくなって。


< 122 / 264 >

この作品をシェア

pagetop