極甘上司に愛されてます
「……でも。それは生きてれば誰もが抱える葛藤で、たとえどっちかを排除しても、いつかはまた同じ壁にぶち当たる」
「そんな……じゃあ、どうしたら……」
「……それは、俺も分からない。お前より長く生きてる分、失敗も多いしな。……だけど」
……編集長が、失敗?
そういえば、留美さんという名の元恋人と遭遇したことがあった。
二人の別れには、何か深い事情がありそうだったけれど……それも、恋と仕事とのバランスが関係あったの……?
頭の中でぐるぐるとそんなことを思っていると、膝の上で軽く握っていた手に編集長の手がふわりと乗せられた。
「――俺は信じてる。精一杯恋愛できるヤツは、同じだけの力を仕事にも発揮できるって」
「編集、長……」
きっと、言葉で言うように簡単にはできないだろう。
でも……この人の側なら、ただの理想論ではなく、それを実現できそうな気がする。
彼の目を見てコクンと頷き、今ならキスを受け入れられる――そんな気持ちが整ったタイミングだったけれど。
……観覧車はちょうど地上に近付いていたところ。
「……もう、降りなきゃ、ですね」
苦笑して立ち上がろうとすると、編集長にぐっと腕を掴まれ引き留められた。
「編集長?」
彼は私を座り直させると、扉を開けてくれた係員に向かって言う。
「――すいません、もう一周します」