極甘上司に愛されてます
「佐藤さん! これ……一体何があったんですか?」
佐藤さんは私を見たあとで事故現場に視線を投げ、静かに語る。
「……俺も事故が起きた現場は見ていないから、あとから聞いたんだけど……あのトラック、ここでUターンしようとして、その途中でブレーキとアクセルを踏み間違えたらしい」
「ブレーキとアクセルを……」
目の前の光景を見る限り、かなりのスピードだったんだろう。
その瞬間を想像すると、背筋に冷たいものが走る。
「あの……けが人は、いないですよね?」
潰れた一階部分は幸いにも、配達用の自転車がずらっと並ぶガレージだ。
朝からそこに用のある社員はいないはず。そう思って、佐藤さんに尋ねる。
「それが……いたんだよ、二人」
心苦しそうに言って、眼鏡を押し上げた佐藤さん。
そんな……二人も、この事故に巻き込まれた人がいるの?
「……誰なんですか?」
さっきから“彼”の姿が見えないけれど、まさか、違う、よね――――?
ごくりと唾を呑みこみ、佐藤さんの言葉を待つ。
彼は私を見つめ返すと、ためらいがちに言った。
「専務と、配達員の菊治さん。……二人とも、ここを掃除している最中のことだったらしい。病院に付き添ってる編集長からさっき連絡があって、二人とも命に別状はないらしいけど……」
――菊治さん。そっか、だから編集長……
「あ、あの! 私もその病院、行ってもいいでしょうか?」