極甘上司に愛されてます
2.大好きな人
「お前、家どこだ」
「……市役所の裏の公園のそばですけど」
「じゃあ送る。そこのロータリーで待ってろ」
「え、あの……」
編集長はそれだけ言うと、私を取り残してこの場から離れてしまう。
行っちゃった……歩いて帰れる距離だから別にいいのに。
どこかに車を停めてあるのかな?
でも編集長って、いつも出勤は車じゃなかったような――――。
*
私の記憶は正しかった。
言われた通りにロータリーで待っていた私の目の前でエンジンを唸らせて止まったのは、光沢のある黒いボディに太くて赤いラインが走る、大きなバイク。
長い脚を折り曲げてそれに跨る編集長は、いつもの二割増しでカッコよく見える。けど……
「ほら、これ被れ」
ぽん、と放られたヘルメットを反射的にキャッチするも、すんなりそれを被ることができない。
なぜなら私は大の苦手なのだ。遊園地のジェットコースターとか、いわゆる絶叫系と呼ばれる、スピードが出る乗り物は。
「あの……私、まだ死にたくないです」
「……失礼だなお前。十八の頃から乗ってるから運転には慣れてるし、後ろに人乗せる場合はいつもより気をつけるから心配するなよ」
「……制限速度ぴったりで走ってくれます?」
「おー、走る走る」
本当かな……
疑いの眼差しを向けると、私の手から無理矢理ヘルメットを奪った彼が、それをボスンと私の頭にかぶせてしまった。