極甘上司に愛されてます
専務にはご家族がいるから、きっと誰かが駆けつけてくれているだろうけど……菊治さんは独り暮らしだったはず。
編集長はこの非常時につきっきりっていうわけにもいかないだろうし、私だけでもそばにいれたら……
「うん。通常の仕事ができるのにはまだ時間がかかりそうだし、ここにいてもやることはないから、行ってきていいよ。編集長には指示を仰ぎたいから早めに戻ってくるよう言ってもらっていいかな」
「わかりました」
佐藤さんから二人の搬送先の病院を教えてもらうと、すぐにタクシーを拾って乗り込む。
二人とも大した怪我じゃなければいいけど、あの状況でかすり傷ってこともないよね……
私は嫌な方向に転がりそうになる思考を何度もごまかしつつ、祈るような気持で病院に向かった。
*
――タクシーに揺られること二十分。
到着した総合病院の自動ドアが開くのももどかしく、救急センターの方へと駆けて行った私。
最後の角を曲がって見える長い廊下の途中、壁に背中を預けて腕組みをしながら立つ編集長の姿を見つけると、迷わず彼の方に駆け寄って行った。
「編集長……!」
私の声に振り向いた彼は、無言で腕を解き、こちらを見つめる。
その表情は暗く、あまりいい予感はしないけれど、聞かずにはいられない。
「専務と菊治さんは……?」
「ああ……二人とも、処置は終わって、もう病棟の方に移動してる」
病棟に……? じゃあ、編集長はどうしてまだここに……
「……専務の方は、怪我の割には元気そうだ。全治六か月、入院は最低でもふた月しなきゃならないらしいが、“ゆっくり休める”とかなんとか言って笑ってた。奥さんも来てるし、俺と一緒に来た社長と仕事の話もしてるみたいだ」
「……そっか……大事に至らなくてよかったです」