極甘上司に愛されてます
私たちのデスクの間を横切り、編集部と営業部のちょうど間に立つと、私たちを見渡した社長と謎の男性。
いつの間に立ち上がっていた編集長と営業部長もその傍らに並び、オフィス内がモノモノしい雰囲気に包まれた。
そんな中、社長が一歩前に出て、一つ咳払いをしてから話し出す。
「おはようございます。皆さんもうご存知とは思いますが、今朝、会社前で大きな事故が起きました。
大きく壊れてしまった一階部分や潰れた自転車の修理費、それに事故に巻き込まれて怪我を負ってしまった専務とポスティングスタッフの方の治療費等、現在相手方と警察、それから保険会社の方を交えて話し合っていますが、うちの社の負担は少ないものと思われるので、心配しなくていいでしょう」
社員は皆静かに話を聞いているけれど、お金のことよりその隣の人は?という目をしている。
本当に、誰なんだろう。女子社員の中には、うっとり見惚れている人もいるくらいの美形な顔立ちの彼は、一見俳優か何かに見えないこともない。
そんな人が、この小さな新聞社に何の用があって……
「――そして、本題ですが。怪我のためしばらく会社に出て来れない専務に代わって、しばらくウチで働いてもらうことになった彼を紹介します。――では、石神くん」
石神くん、と呼ばれたその人は、後ろに下がった社長と入れ替わるように前に出ると、私たちに一度頭を下げてから口を開いた。
「石神悟(いしがみさとる)と申します。この度は、社長にお声を掛けて頂いて光栄に思っています。専務がお休みされている間、彼の代理としてしっかり職務を全うするつもりでおりますので、どうかよろしくお願いいたします」
……なるほど。専務の代理、か。
その部分には納得がいくけれど、社長は一体どこからこの人を引っ張って来たんだろう。
見た目、三十代だし……あまり重役という感じには見えないけれど。