極甘上司に愛されてます


そういえば、電話口で言っていた。“厄介そうな人が来た”って。

それって、もしかしなくても、この人のことだよね……

それにしても、これって、本当に従わなきゃいけない規則なんだろうか。

そんな取り決めを作った根拠を知りたいけれど、面と向かって聞く勇気もないし……

私がまごついて何も聞けないでいると、営業部の方でスッと挙手をした人物がいた。


「……何か質問ですか?」

「はい。――どうして、上司と部下という組み合わせに限るのかなと思って」


石神さんのオーラやイケメン度、専務代理という肩書きにもまったく動じずに堂々と立ち上がったのは、いつもクールかつドライな先輩、理恵さんだ。

さ、さすが理恵さん。カッコイイ……!

私を含め、周囲の皆はまるで拍手の代わりのように、瞬きを繰り返して彼女を称える。

石神さんもその鋭い質問に感心したように頷くと、相変わらず微笑を浮かべたままで、こう話した。


「……そうですね、当然の疑問なので、説明しましょう。要は、トラブル防止のためです」


トラブル防止……? なんだか教科書通りの答えだけど、どういうことだろう。


「上司、という立場の者は、会社のことについて、部下よりも多くの情報を知ることを許されています。それは上の立場になるにつれ重要なものになり、このような小さな会社では、“彼らクラス”の立場でも、重大な機密事項を握っている」


“彼らクラス”と言いながら石神さんが視線を送ったのは、編集長と営業部長。

私たちが頼りにしている上司をそんな見下したように言われて、なんだか腹が立つんですけど……石神さんだって、自分は専務代理のくせに。

私が心の内で悪態をついている間にも、彼の説明は続く。


< 140 / 264 >

この作品をシェア

pagetop