極甘上司に愛されてます
「前の勤め先で、部下と交際していた上司……確か、あれは政治部の部長でしたかね。自分がつかんでいた、ある議員の汚職に関する情報を、あろうことかベッドの中で交際相手に話したらしいんです。その彼女が軽い気持ちで情報を漏らし、大問題に発展しました」
大げさに身振り手振りまで加えて話す石神さんに、再び理恵さんが噛みつく。
「……それは、その部長さんが間抜けだったんじゃないんですか?」
「ええ、もちろんそのひと言で片づけることもできます。けれど、会社に与えたダメージを考えたら、恋愛を規則で縛ることもやむを得ない私は考えます」
専務の言葉に、理恵さんは不満げな表情のままだったけれど、それ以上何も言わなくなってしまった。
まさか、我らが女戦士理恵さんが負けるなんて。
なかなかやるな……あのイケメン専務。
「とはいえ、私も鬼ではありません。役職のない下々の皆さん同士は、自由に恋愛してもらって構わないと思っています。問題は、上司と部下という組み合わせです。さっき私が話した例の他に、恋愛関係がこじれて上司が部下にセクハラで訴えられるというケースもあります。
……そんな面倒事の原因は、最初から作らない方がいいでしょう?」
……ちょっと、色々と突っ込みたいところが多すぎて、頭が痛いんですけど。
今、下々の者って言わなかった……?
確かに鬼ではないかもしれないけれど、根性悪すぎるでしょ……
明らかに誰も納得していないのに、反論をする勇気のある人がいないことがわかると、石神さんは満足げに口角を引き上げて、編集長と営業部長の方を振り返る。
「では、皆さんわかってくれたようなので、私はこれで失礼します。恋愛の件は、ようはあなた方がしっかりしていれば大丈夫だと思うので、あとは私語の件と、オフィス環境改善の件、よろしくお願いします」
……あなた方がしっかりしていれば。か。
編集長、私とのことが石神さんに知られたら、かなりマズイってことだよね……
……これから、私たち、どうなっちゃうんだろう。