極甘上司に愛されてます
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「……でさー亜子ちゃん、いつから編集長と付き合ってるの?」
会社近くの小さな定食屋さんの片隅で、店員さんへのオーダーを済ませるなりそんな質問を投げかけてきた理恵さんに、お冷を傾けていた私は盛大にむせた。
「な……なぜ、それを……」
げほごほと咳き込む口元をハンカチで押さえて上目づかいで理恵さんを見つめると、そんな私を鼻で笑った彼女はしれっと言い放つ。
「そんなの今日の二人を見てればわかるわ。編集長が前々から亜子ちゃんのことお気に入りだったのはみんな知ってるし」
「お気に入り……?」
「ええ。“有能な部下に期待してます”風を装ってるけど、亜子ちゃんを見る時だけ妙に目が優しいからばればれ。でも、亜子ちゃんには彼氏いたから、あの年で報われない恋してる編集長にみんな同情してたのよ」
そ、そんなの初耳だ……
まだ入社二年目で失敗も多い私のことを気にかけてくれるのは、編集長の人徳だと思っていたけど……それだけじゃなかったってこと?
「で、いつ乗り換えたのよ、テレビ局の元彼から」
運ばれてきた和風ハンバーグ定食の大根おろしにポン酢をふりかけながら、理恵さんが興味津々で聞いてくる。
「乗り換えた……ってなんか人聞き悪いですけど。一昨日です。だから、お付き合い三日目にして、最大のピンチというか……」
「ああ、専務のあの発言ね。……って、まだ三日目なの!? じゃあ本当に一番楽しい時期にとんだ邪魔者が現れちゃったわけだ」
コクン、と頷き、自分のさばみそ定食をもそもそと口に運ぶ。
私もお魚よりお肉にすればよかったかなぁ……なんか、元気出ない。