極甘上司に愛されてます
「……さっきも言ったでしょ? 羨ましいのよ、仕事に支障をきたすくらい恋愛に情熱を傾けられる亜子ちゃんがね」
「……そんな、私はたぶん社会人として未熟なだけで……」
「お互い足して二で割ったらちょうどいいのかしらね。……でも、きっと。編集長はどんなあなたでも溺愛すると思うけど」
いたずらっぽく笑うと、理恵さんは伝票を持って立ち上がる。
……彼女の手に光る銀のリングを見るといつも思っていた。
理恵さんは、仕事と恋愛、両方の幸福を手にしている憧れの先輩。うらやましいなって。
……でも、彼女も複雑なんだ。いつもクールで堂々としているから、気が付かなかった。
「ワーク・ラブ・バランス……きっと、働く大人みんなが悩んでいることなんですね」
男性陣への差し入れをコンビニで買って会社へ戻る途中、理恵さんの隣に並んで歩道を歩きながら、ぽつりと呟く。
「そうね……でも、私はまだ諦めないよ。今こうして落ち込んでるのって、旦那のこと好きだから、理解し合いたいからだと思うの。だから、どうにか足掻いてみる」
「……理恵さん。やっぱり、理恵さんは憧れの存在です。女子社員の希望の星!」
私よりも十センチくらい背の高い理恵さんを見上げて力説すると、彼女は大真面目な私の顔を見て吹き出す。
「それは言いすぎよ。……何か下心あるんでしょ」
「あ、ばれてましたか……その調子で、専務の考えも変えてほしいな、と」
「うーん、それは難しい相談ね。でも、あんなくだらない規則をエラそうに語れるあの人こそ、何か心に闇がありそう」
「ええ? ……ただ、性格が根元から腐ってるだけじゃないですか?」
闇があるとしたら、簡単には暴けないくらい深くて暗そうだし……できれば関わりたくないな。