極甘上司に愛されてます
「まあどちらにしろ、編集長とは当分コソコソ付き合うしかないわね」
「……やっぱり、そうですよね」
肩を落として深いため息を吐き出す私を、面白がるような目で見つめる理恵さん。
彼女のおかげで必要以上に深刻にならずに済んだけれど、編集長とのこれからに不安が拭えないことには変わりない。
上司と部下の恋愛禁止令……編集長はどうするつもりなんだろう。
ひと言でもいい。
何か、私を安心させてくれる言葉をくれないかな……
*
その日は結局定時まで編集長と言葉を交わすことはできず、そのうえ帰る直前にパソコンに送られてきたメールを見て私はさらに意気消沈していた。
……これ、やっぱり、専務の影響だよね。
カチ、とメールのウインドウを閉じて、何気なく編集長のデスクを見る。
瓦礫の処理が一段落してオフィスに戻ってきた彼はそれからずっと無口に事務仕事をしていて、たとえ仕事のことでも話しかけづらい雰囲気を醸し出している。
今日は、二人で話すの無理そう……
諦めた私はパソコンの電源を落としてバッグをつかむ。
そうして、まだ仕事中の周囲の同僚たちに「お先に失礼します」と頭を下げていると、後ろで足音がしたのと同時にふわりと彼の香りが鼻をかすめた。
パッと顔を上げてその姿を探すと、彼はマグカップを手に編集部を出て行こうとしているところ。
コーヒーでも入れるのかな……
――あ、ちょうどいい。あそこなら、誰にも気づかれずに会話ができる。