極甘上司に愛されてます


廊下に出て、給湯室の扉が閉まったのを確認すると、私は周囲に人がいないかどうか確認してから忍者のようにそこに近付く。

扉に耳を当てても誰の声も聞こえない。つまり、ここには編集長が一人でいるってことだ。

私は意を決して、静かに扉を開く。

するとその音に反応して、シンクに腰をもたれてマグカップに口をつけていた編集長がこちらを向いた。


「……北見」

「あのう……お疲れ様、です」


言いながら後ろ手にドアを閉めると、なんだか悪いことでもしている気分になってくる。

仕事終わりに恋人同士がちょっと会話するくらい、別に悪いことではないはずだけど……部屋が狭いからかな。必要以上にドキドキしてしまう。

なかなか声を発せないでいる私に、編集長の方から先に話しかけてきた。


「あのメール、確認したか?」

「あ、はい……あれって、やっぱり……?」

「……まぁな。場所が場所だし、俺が一緒に行ったらたぶん余計なことして遊びそうだから、外れることにした」


さっき届いていたメール。それは、例のウェディング特集の最後の取材先には、私と編集長……ではなく、私と佐藤さんで行くようにという変更の指示。

今度行く式場は、カラードレスの種類の豊富さが売りで、色々なドレスを実際に見せてもらう予定だったけれど……


「遊ぶって……?」

「ドレスなんか見に行ったら、確実にお前に着せたくなるだろ。……しかもその姿見た後で二人きりになるタイミングでもあろうものなら、あの専務に怒られるようなことしそうだしな、俺」


ふざけた口調で言いつつも意味ありげに私を見つめるものだから、さっきからうるさい心臓がさらに激しく鳴り始める。

専務に怒られるようなこと……って、そ、想像しちゃダメ、私!

この狭い空間で赤面したら、絶対にバレる……!


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