極甘上司に愛されてます


「……何度言われても、答えは同じです」


やがて聞こえてきたのは、編集長の低い声。


「それでも……また来ます」


少し間を置いて、落ち着いた女性の声が聞こえた。

静かだけれど、どこか意味深に聞こえる二人の会話に私の胸が鈍い音を立てる。

誰なんだろう……この女の人。


「……彼女は、いないんですよね?」


どうやらこの部屋の前で、女性が足を止めたらしい。

さっきよりも幾分聞き取りやすくなった声が、編集長にそう尋ねた。


「今はいませんけど……」

「それなら私、諦めません」


彼女は、いない……?

ああ、きっと……専務の目があるから、対外的にはそう言うしかない……って解釈でいいんだよね?

でも……“諦めない”――って?

聞こえてくる言葉と扉の向こうから漂う雰囲気からは、いやな想像しか浮かばない。

二人がどういう関係かは知らないけれど、少なくとも女の人は編集長のことが好きで、彼に会いに職場まで押しかけてきた……
彼女は“いない”と言う彼を、口説くために。

そう考えるのが妥当な気がする。

……どうしよう。私、いちおう彼女だけど。

最近彼女らしいことひとつもできていないから、“いない”って言われたわけじゃないよね?

編集長は、そんなにひどい人じゃないよね……?


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