極甘上司に愛されてます
ふるふると首を振ってネガティブな妄想を振り払っていると、廊下の声がいつからかしなくなった。
帰ったのかな……
音を立てないようにそうっと扉を開ける。
すると、廊下の真ん中で抱き合う二人の姿が目に飛び込んできて、私は呼吸の仕方を忘れた。
……なに、してるの……?
抱き合う、と言っても、編集長は後姿しか見えないし、腕はだらりと下ろしたままだけれど。
重なり合って見える二人の顔……どう見たってキスをしているようにしか見えない。
ドアを半開きにしたまま呆然と立ち尽くしていると、彼の首にしがみつくようにして腕を回している女の人と、ふいに目が合う。
“邪魔しないでね?”
――そんな声が聞こえてきそうな、艶っぽく妖しげな瞳。
咄嗟に開いていたドアを元に戻し、給湯室に閉じ籠ると、扉に背中を預けてずるずると床に座り込む。
……早く。早く二人ともいなくなって……
そればかり祈って、目をぎゅっとつぶりながら、両手で耳も塞ぐ。
今のは、あの女の人が強引に……?
そうだとしても、いやだよ。……そうじゃなかったら、もっといやだ。
“彼女”は私……で、いいんだよね?
本当の意味で“いない”ことになんて、されてないよね……?
押し寄せる不安と悲しみに渦巻く胸を抱えて、私はしばらく床にうずくまっていた。