極甘上司に愛されてます
どうやって家にたどり着いたかわからない。
魂が抜けたようにふらふらとした足取りで帰り着いた自宅アパートで、私はベッドに倒れ込んだ。
頬にかかる自分の長い髪がうっとうしい。けれど、それを直す気力すらない。
放っておくと勝手に潤んでくる瞳を忌々しく思い、痛いくらいに強く、枕に顔を押し付けた。
……いつまで。いつまで、我慢すればいいんだろう。
前に編集長が専務たちと飲みに行くという話をしていたけれど、結局その報告もない。
やっぱり、あの人と正面から話し合うなんてこと、無理だったんだろうな……
つまり……状況は、何も変わってない。
私たちは、ただの上司と部下として振る舞わなきゃいけない。
……そんな時期に、オトナの女の人に迫られて、編集長も少し揺れちゃったのかな。
据え膳食わぬは……的な感じで。
こんな時、私はどんな態度を取ったらいいんだろう。
知らない振りをして、ただただ耐える?
“キスしているところを見た”とはっきり言って、彼を責める?
それともあの女の人の素性を調べて、会いに行って、“私の彼氏に手を出さないで”って言うとか……
「……どれも無理、だよ」
くぐもった声で呟き、目を閉じる。
今日はもうこのまま寝ちゃおうかな……食欲、ないし。
シャワーは朝浴びればいいや……
投げやりにそう思いながら、ごろんと寝返りを打つ。
するとその瞬間、玄関のチャイムが鳴った音が聞こえて、目を見開いた私は、がばっと身を起こす。
「編集長……?」