極甘上司に愛されてます
もしかして、謝りに来てくれたのかな。
それとも、ただ単に私に会いたかった、とか……
勝手に膨らんでいく期待が、私の足を玄関へと急がせる。
そうして、鍵を開けるのももどかしく、やっと開いた扉の先には――
「久しぶり、亜子。元気にしてた?」
驚きよりも落胆の方が大きいのは、私の頭の中にはもう目の前にいる人のことはほんの僅かしかなくて、残り全部の脳細胞が、編集長のことを考えていたからだと思う。
「……渡部、くん」
……何しに来たの?
あんなにあからさまな浮気をしておいて、こうして私に会いに来る神経、本当に理解できない。
「……何の用?」
「ゴメン、亜子から連絡あるまで会いに来ちゃダメだとは思ったんだけどさ、そろそろ亜子が足んなくて、限界で……充電させて?」
冷たく言ったはずなのに、全く気付いていないみたい。
図太いのか、呑気なのか……充電だなんて、そう言えば女の子が喜ぶと思ってるんだろうな。
……私の他にもコンセント持ってるくせに。
「渡部くん、ちょうどよかった。……話したいことがあるの」
「話したいこと?」
会いに行く手間が省けてよかった。
せっかくだから、彼との関係、ここでハッキリさせておきたい。
「うん……単刀直入に言うと、別れたいの」
「……え。ちょ、ちょっと待って!」
焦りながらも、薄く笑っている彼。きっと冗談だとでも思っているんだろう。
……そんな反応、よくできるよね。