極甘上司に愛されてます
「亜子、急に来てゴメン」
「ううん……! どうしたの?」
この時間でもぱりっとスーツを着こなしていて、好青年を絵に描いたような爽やかさがあふれる渡部大樹(わたべたいき)くんは、市内にあるケーブルテレビ局の営業マン。
まだ私が入社したての頃、地域に貢献しているという意味では私の勤める新聞社と同じ方向性である彼の会社を取材したことがあって、その時に“期待のフレッシュマン”としてインタビューした相手が渡部くんだった。
当時の私はまだ先輩にくっついて取材のやり方を勉強している最中だったけれど、同じ新入社員として空いた時間に彼といろいろ雑談をしていたら意気投合して、お付き合いする運びとなった。
見た目が素敵なのもあるけど、それを裏切らないまじめさと誠実さを持つ渡部くんは、私にはもったいないくらいの人。
付き合い始めてからもう一年以上過ぎたけど、私はその間にどんどん彼にのめりこみ、今では仕事に支障が出るまでになっている……というわけなのだ。
「実は、大事な話あってさ……」
彼との出会いに思いを巡らせていると、少し気まずそうに渡部くんが言った。
大事な話……? なんだろう。まさか転勤とかじゃないよね……?
なんとなくその話を先延ばししたくて、私はつとめて明るく言う。
「と、とりあえず、中入ろっか! 私ご飯作るよ、食べて行くでしょ?」
「……ああ。そうだな、ご馳走になろうかな」
少し表情を和らげた渡部くんを見てほっとしながら、私は玄関を開けて彼を家に招き入れた。