極甘上司に愛されてます
ズッ、と鼻を啜り、服の袖で涙を拭う。
泣くつもりなんてなかったのに……今、心が弱っているからかな。
編集長のことで不安定だった感情のやり場がなくて、渡部くんにぶつけちゃったのかも……
「……ゴメンなさい。泣いたりして」
渡部くんから顔を背けて謝ると、濡れた頬にそっと手が添えられて、私の体が小さく跳ねる。
思わず見返した彼の瞳には、後悔の色が浮かぶ。
また、演技なの? それにしては、今度は下手だけど……
「……そういう亜子だから、きっと甘えてたんだ。俺」
「え……?」
「いつも、盲目的に俺のこと好きでいてくれてさ……亜子の笑顔が俺の癒しだったんだ。本当に。料理もうまいし、大人しくて天然っぽいのに、意外と床上手だったりしてさ」
「と……床上手って……」
最後になんて冗談を言うのよ、まったく……
気まずさからうつむくと、上から降ってきたのは、深いため息。
「だからだろうな……ちょっとくらい、他で遊んでも、許されるような気がしてた」
「そんな……浮気を許す人なんて、いるわけないじゃない……」
ぼそぼそと低い声で呟くと、渡部くんは自嘲するように「……だな」と言った。
そして私の顔からスッと手を離し、私の目を真っ直ぐに見つめる。
「……今までありがとう。亜子の肉じゃが、めっちゃ好きだったよ」
「……私は家政婦ですか」
「拗ねんなよ。……未練残る」
演技……ではない、と、受け取っておくことにしよう。
最後の最後まで嘘ばかりの関係だったとは、思いたくないから。
……でも、それなら。私も最後に、本当のことを言おう。
「……それは、困る」