極甘上司に愛されてます
「あ……もしかして、彼氏いる?」
「……うん。ごめんなさい、渡部くんとちゃんと別れていないのに、その人とのお付き合い、始めてた」
「なんだ、そっか。じゃあ、亜子は今幸せなんだ」
その問いには、即答することができなかった。
今日、会社で見た光景が脳裏に蘇り、忘れかけていた胸の痛みが同時に舞い戻ってくる。
「…………うん」
「なんだよ今の間」
「別に、ちょっとぼうっとしてただけだよ」
「ふうん……怪しいけど、亜子が悩んでても、俺にできることはもう何もないもんな」
編集長とのことで悩んでいると言っても、渡部くんには関係のないこと。
これは、私がどうにかしなきゃいけない問題なんだ。
今、私が好きなのは編集長なんだから……本人と向き合わないでどうするの。
「うん……そうだね」
向き合った私たちは、色々な感情を溶かし込んでいるにしても、どちらも笑顔。
気持ちよく、とはいかないけれど、これで、本当のお別れだ。
「じゃあ、元気で」
「うん。仕事頑張ってね」
「亜子もな。……うちの会社にもあの新聞届くから、亜子が今頑張ってる十月の特集ってやつ、楽しみにしとく」
「ありがとう」
その会話を最後に遠ざかっていく靴音と、何度もここから見送ったことのある、渡部くんの後姿。
彼との終わりをこんな風にあっさりと受け入れられているのは、他でもない、編集長のおかげだよね……
いつも高いところから降り注ぐあたたかい視線に守られて、この頃の私はつらいこと、ショックなことを、その半分くらいの痛みでやり過ごすことができているのだから。