極甘上司に愛されてます
……渡部くんじゃないけど、もしかして私、編集長に甘えすぎてる?
不安を和らげて欲しいとか、専務のことをどうにかして欲しいとか……
“欲しい”ばかりになってない?
私は彼よりずっと年下で、仕事の上でも部下だけど。
だからって、何もかも待っているだけじゃ、状況は変わらないような気がする。
私にできること……きっと、何かあるはず。
さっきまで無気力だったのが嘘みたいに生気を取り戻した私は、部屋に戻ると何かに突き動かされるようにノートパソコンを開いた。
ブライダル特集を任された時、この仕事だけはちゃんとやりたい、失敗してなるものかと意気込んで、恋愛とかそういう余計なものはとにかくそれが終わってから!としか考えていなかった。
……でも。仕事って、そういうものじゃないよね。
ひとつが終わったら、また次のことを、前回以上のものに仕上げられなければ成長がない。
特集を終えて、「やっと恋愛ができる」だなんてホッとしているようじゃ、せっかく頑張った意味がなくなってしまう。
白紙のページに打ち込んでいく文字は、たくさんの人と関わり合う毎日で、私の中を最近ずっとぐるぐるとまわっている疑問。
あのクールな理恵さんでさえ、それで悩んでいた。
編集長と留美さんが別れてしまったのも、おそらくそれがきっかけ。
そしてあの酷薄そうな専務につきつけられた規則も、根底にあるのは同じもの。
仕事と違って、恋愛なんてしなくても生きていける。
けれど、大切な人の存在は人生を彩り、私たちに生きる意味をくれる。
なのに、それがいつしか仕事の邪魔になって、壊れる関係もあって。
ぐらつく天秤を必死で同じ重さにしようとしすぎて疲れて、どちらか一方を諦めている人もいて。