極甘上司に愛されてます
15.恋なんて要らない
その週の金曜日、三日間試行錯誤して作り上げた企画書を手に、私は会社の中をウロウロしていた。
朝イチで編集長に提出したかったのに、外出やら会議やらで席を外していた彼がなかなかつかまらず、気が付けば午後になってしまった。
行動予定のホワイトボードは無記入だったから、社内にいるはずなんだけどな……
三階建ての小さなビルだから、探す場所もそんなに多いわけではない。
まだ見ていないのは社長や専務の部屋がある三階部分。
それから、屋上もあるけど……
ゆっくり階段を上がっていくと、三階に着いたところである人物と出くわした。
紳士服売り場のマネキン以上にスーツが似合っている彼は、今日も恐ろしいくらいにイケメンオーラ大放出。
近付くと静電気みたいにぴりっとするんじゃないかな……
そんな馬鹿げたことを本気で心配して、少し距離を開けたままで挨拶をする。
「お疲れ様です……石神専務」
「ああ、お疲れ様。きみ……北見さんだっけ」
「は、はい」
やばい……名前を覚えられている……
私なんて下々の者のそのまた下の、最下層社員なのに……
「……それ、企画書? ちょっと見せてもらえますか?」
私の手元を覗き込んだ専務が、そう言って手のひらをこちらに向ける。
「えっ……?っと、その。まだ、自分の上司にも見せる前なんですけど」
「構わないよ」
いや、こっちが構うんですけど……!
心の中で冷や汗をかきつつも、有無を言わさぬ迫力のある彼の微笑の前には、企画書を差し出すしか私に道はない。