極甘上司に愛されてます


心当たりのある私は、小さく心に落ちた嫌な予感が急速に胸に広がっていくのを感じた。

その女性、この間の、キスの相手かもしれない。

でも……“揉めてる”ってことは、編集長は“困っている”ということだよね?

……部下としてでもいいから、どうにか助けてあげられないかな。


「……気になるなら、行って来たらどうですか?」


私の心を見透かしたかのように、専務が言う。

今この人の前で「行ってきます」というのは、私と編集長の仲を勘繰られることに繋がりそうで、少し躊躇してしまうけれど……

気になるものは気になる。黙って目を逸らしていることはできないよ。


「……そうします。企画書、見て下さってありがとうございました」

「いいえ。その企画が実現することを祈ってますよ」


まさか専務にそんな優しい言葉を掛けてもらえるとは思わなかった。

少々面食らいながらも深々とお辞儀をして、さっき上ってきた階段を今度は駆け下りて行く私。


そうして建物を出ると、少し先で女性と向き合う編集長の姿が見えた。

向き合う――というか、かなり感情的になっているらしい女性を、編集長がその手首をつかみながらなだめている……そんな雰囲気。

今日も会社の一階の修理にあたっている作業員の人たちが、ときどき仕事の手を止めては二人に好奇の目を向けている。

……一体なんの話をしてるんだろう。

私はゆっくり二人に近付きつつ、勇気を出して声を上げる。


「――編集長!」



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