極甘上司に愛されてます
「何食べたい? 昨日買い物に行ったばっかりだから、いつものレパートリーはだいたいできるよ」
「じゃあ……肉じゃがで」
「了解」
1DK小さな家の中。
キッチンの後ろにある居間スペースに慣れた様子で胡坐をかく渡部くんのリクエストに応えようと、私はエプロンをつけてシンクの前に立った。
こういう新婚っぽい雰囲気をたまらなく幸せに感じる私は、彼に背を向けているのをいいことに、ちょっとにやけながらお米をとぎはじめる。
もともと料理は苦手だったんだけど、渡部くんと付き合い始めてから、好きな人のために作るのは楽しいものだと思えるようになり、同時に腕も上がった。
「亜子」
「んー?」
手についたお米をぱらぱらと釜の中に落として、最後の水加減を調節していると、ふいに背中にぴったりとくっついた熱。
ドキ、と胸が鳴って振り返ろうとすると、お腹に腕が回されて、耳に渡部くんの唇が触れた。
「……どうしたの?」
「やっぱり俺、できないわ」
「できない……?」
「うん。……さっきの、“大事な話”ってやつ、忘れて?」
え……? どうして……
聞き返したいのに、耳にかかる吐息が熱を帯びてきたのを感じて、胸の高鳴りだけが私を占領していく。