極甘上司に愛されてます

妊娠は、嘘じゃない……それを悟って動揺する私に、彼女はダメ押しのように手帳の間から出した白黒の小さな写真を差し出す。


「もう、心拍だって確認できているのよ？」


そこにはきちんと目に見える小さなイノチが写っていて、それを見たら、何が本当のことなのか、私にはわからなくなってしまった。

私は無言のまま、右肩に乗せられている編集長の手をそっと外す。


「……北見？」

「先、戻ってます……見て欲しい企画書があるので、編集長の机に置いておきますね」

「ちょっと待て。お前、何か誤解してるだろ」

「……私、聞いてたんです。編集長が“彼女はいない”と言っているのを。それに、二人がキスしてるのも見ました」


……お願い。何かいいわけして。
そんな切実な思いで編集長を見つめると、彼は苦しげな表情で、私を見つめ返す。


「……そのことは否定しない。けどよく考えろ。キスで子供はできない」


そんな……それって、もう、認めているのと同じことじゃない。キス以上のことをしたって……

なんなの？　私、また付き合ってる人に浮気されたの？

編集長も、結局、私を裏切るの……？


「……もういいです。私、ブライダルの記事仕上げちゃいたので、余計なこと考えて自分を煩わせたくない」

「……余計なことじゃねぇだろこれは」


痛いくらいに強く腕をつかまれたけれど、思いきり振り払って、私は彼を睨んだ。


「……もう、今度こそ。恋なんて要りません」


そんな言葉を残すと、企画書を胸に抱きしめて、私は会社の中へと戻って行く。


……泣いている暇なんてない。私には仕事がある。

結局は私も、“できない派”になってしまったけれど。

専務が褒めてくれた企画の方向性に、きっと間違いはないから――。