極甘上司に愛されてます
16.父親の正体
-side 高槻透吾-
……アイツは一度、恋人に裏切られている。
俺のことを信じられなくても、無理はない。
歯がゆい思いを抱えつつもそんな風に自分を納得させながら、俺は北見の姿が会社の中に消えていくのを黙って見ていた。
「……追いかけなくていいの?」
背後から掛けられた声に、俺は体の向きを変えて答える。
「ああ、いい」
「やっとその気になってくれたのね? この子の父親になるって……」
パッと顔を輝かせて自分のお腹に手を当てる、派手な顔立ちの女性……名前は、美緒(みお)という源氏名しか知らない。
彼女との出会いはあの事故の日の夜……
社長が俺と専務をキャバクラなんかに連れて行ったことから始まった。
*
『――今日はイケメンを二人も連れてきてやったぞ』
社長はその店の常連らしく、店の入り口で女の子たちに向かって得意げにそう話した。
一緒に来る予定だった営業部長は行き先がこういう店だと知ると、“妻にばれたら怖いので”と、恐縮しながら帰っていったので、ここへ来たのは三人。
北見も……というか、女なら自分の好きな相手がキャバクラに行くことにいい顔はしないだろうけど、会社の外で専務がどんな顔を見せるのか、それを確かめたいから断るわけにはいかなかった。
俺と専務が並んだ姿にわざとらしい歓声が上がる中、ボーイに通されて奥のソファに皆で腰かけると、ドレス姿の女性が数人やってきて俺たちの間に座る。
『今日は来てくれてありがとうございます。私、美緒です』
『……どうも。高槻です』
そこでたまたま俺の隣に座ったのが、彼女だった。
光沢のある水色のドレスを身に着け、緩く巻いた髪を片側の肩の方に流している彼女を、素直にキレイだと思ったのが第一印象。