極甘上司に愛されてます
『嫌って……』
『私はあなたのことが好きではありません。いやむしろ、キライです。なので、仕事以外で関わりたくないということです』
『では』と短く言ってスタスタと俺の元を去っていく専務。
……なんだ今の、子どもみたいな台詞は。
全く彼らしくない……でも、だからこそ本心なのか?
『つーか、やっぱ嫌われてんのか……』
バイクのことといい、どうも俺にだけ風当たりが強いと思った。
しかし、理由がわからない。
社長に連れられてあの人が会社に来るまで、会ったこともなかったはずだし……
消化不良の気持ちを持て余しつつ、とりあえず家に帰ろうと歩きはじめると、後ろからヒールの音が俺を追いかけてきて、振り向いた瞬間にがしっと腕をつかまれた。
『ちょっと……待って下さい……!』
息を切らせながら俺にそう言ったのは、さっきまで店で一緒に飲んでいた美緒。
『美緒さん……? あれ、俺なんか店に忘れ物しました?』
『違うんです……あの、個人的に、お話が……』
首を傾げて彼女の方に向き直ると、彼女は『ここではちょっと』と言い出して、俺の先を早足で歩き始めた。
さっきの店のような飲み屋が並ぶ通りのちょうど裏側。
お世辞にもあまり住み心地が良さそうとは言えない木造の古アパートの前で、美緒は足を止めた。
『お茶、入れるので、上がって下さい……』