極甘上司に愛されてます
……なるほどな。よく考えたもんだ。
北見が企画書を提出してくるのは初めてのことだから、指摘しなきゃならない部分はたくさんある。
けれど、アイツらしい着眼点にもとづいたこの企画を、検討してみる価値はありそうだ。
俺は赤ペンを手に取り、北見の企画書を細かく添削していった。
「コレ、明日でいいから見直してみてくれ」
美緒との約束のため定時を過ぎてすぐに帰り支度をした俺は、自分のデスクに北見を呼んで、直しが入って真っ赤に染まる企画書を返しながら言った。
少し気まずそうにしながらもそれを受け取った彼女は、すぐに書類を確認して言う。
「ありがとうございます……って、うわ、真っ赤」
「企画自体は面白い。だから、そこ全部直せば会議に出してもいいと思ってる」
「……! ホントですか!?」
ぱっと表情を明るくした北見は、すぐに自分の席に戻ってパソコン画面を覗く。
……俺に対して色々思うところはあるはずなのに、それを見せることなく真面目に仕事に取り組む彼女の姿を見て、思う。
以前の彼女なら、恋愛のことで落ち込んで、仕事に支障が出て、そこでまた自分を責めて……堂々巡りの悪循環を繰り返していた。
けれど、今の真剣な北見の横顔からは、いやなことから逃げるためだけに仕事に打ち込んでいるわけでなく、初めて立ち上げる自分の企画をよりよくしようというポジティブな姿勢が見える。
……お前は、成長してる。悩みながらも着実に、いい方へと変わっている。
恋人としてのひいき目なしで、上司として、正直にそう感じる。
「あんまり根を詰め過ぎるなよ。……じゃあ、お先」
褒めてやりたくても、今の状況じゃ必要以上に優しい言葉も掛けられないことが歯がゆい。
今はとりあえず、あのお騒がせな芸術家をなんとかしなきゃな……
少々面倒だと思いながら編集部を出るとちょうど美緒から電話がかかってきて、小林風人のアトリエ近くで待ち合わせることになった。