極甘上司に愛されてます
キャサリン探しの時と同じようにバスでそこに向かった俺は、神妙な面持ちの美緒と合流すると、いくつもの広い田んぼに囲まれた、古民家風の彼のアトリエを目指した。
「なっ……! なんでまたアンタがここに!? あの猫はもうココには来てないぞ!」
アトリエに着き、俺がインターホンを押すと、ほどなく玄関から出てきた小林風人。
俺には最悪の印象しかないのだろう、ワナワナ震えながらこちらをにらみ、聞いてもいない猫の話までしていた。
「……違ぇよ。今日は、先生に届けモン」
そう言うと、俺の背中に隠れるようにしていた美緒が、おずおずと彼の前に出て行く。
「……! 晴香(はるか)?」
小林風人は、彼女を見るなり驚いた表情でそう言った。
晴香……本当は、そういう名前だったのか。
そのことを彼が知っているということは、やっぱり、彼女の想いは本物なのだろうな。
「どうして最近電話に出てくれなかったんだよ。店に行ってもいないと言われるし、事故にでも巻き込まれたのかと思って心配してたんだ!」
「ごめんなさい……あのね、あなたに、大事な話があるの……」
「大事な話……?」
美緒……いや、晴香が妊娠していることに小林風人がどんな反応をするのかを考えると、一緒に居る俺まで緊張してきた。
彼は認めるだろうか。
自分の子供が彼女のお腹の中にいることを。
「私……妊娠しているの。……あなたの子を」
周りに田んぼしかないこの場所で、風が稲穂を揺らす音と、秋の虫の声……
そして晴香の勇気ある告白だけが、静かな夜に響いた。