極甘上司に愛されてます
「こ、ども……?」
すぐには理解できないのか、小林風人は噛みしめるようにそう呟き、説明を求めるように晴香を見つめる。
「……結婚してくれなんて思ってない。もちろんあなたの作品作りの邪魔もしない。ただ、あなたの子がここにいるっていうことだけ、知っていて欲しくて……」
手のひらでお腹に触れ、切ない声で晴香が語ると、小林風人は未だ怪訝そうな表情で聞く。
「……あのさ。なんで結婚したくないの?」
「だって……あなた芸術の妨げにはなりたくない」
「結婚したら僕の腕が鈍るとでも?」
「そうじゃないけど……あなたは自由を愛しているから……」
一方的に話す晴香に、小林風人は深いため息を吐き出す。
そして彼女の両手を軽く握り、慈愛に満ちた表情で言った。
「……今まで、僕は晴香にそう思われても仕方のないことをしてきた。そこのやくざみたいな男の部下に手を出そうとしたこともあるし……」
……おい、ちょっと待て。やくざみたいってのは余計だろ。
突っ込みたい気持にかられながら、話の腰を折ってはいけないと黙り込む俺。
「でも、僕も晴香に対して同じことを思ってたんだ。ああいう店で働く女の子って、男相手ならみんなに良い顔しているんだろうって」
「……そんなこと……」
「そう思ってたから、僕も本気にならないようにって、他の女の子とも遊んで自分を抑えていたんだ。嘘に聞こえるかもしれないけど……本当に」
なるほど、な。俺も男だから、彼の言うことはわからないでもない。
あの店に行ったとき、そこで働く女たちの発言が、どこまで接客で、どこから本気なのか、それが疑わしくてなかなか信用できなかった。
小林風人の女遊びの理由も、そういうことだったのか……