極甘上司に愛されてます
会社に着くと、時刻は八時を過ぎていたのに、見上げた二階の窓からは明かりが洩れていた。
それも、編集部側の方だけ。
誰が残ってるんだ……?
ウチの編集部員は要領のいい者が多く、たいていの奴が定時までに仕事を切り上げて帰っていく。
まれに残業するにしても、こんな時間まで残っているのは珍しい。
もしも女子社員だったら、早く帰らせてやんねーと……
そう思いながら階段を上がり、入って行った編集部。
そこにはこの時間まで残っていても納得の要領の悪いヤツが、デスクに向かい背中を丸めて、未だ仕事に熱中していた。
「北見……まだ残ってたのか」
「あ……編集長。“まだ”って……え、もう八時!?」
どうやら時間を忘れて仕事をしていたらしい。
自分の手首に巻いた小ぶりの腕時計を見て驚愕した北見は、散らばった紙をまとめてトントン、と机の上で整えると、自分のデスクで忘れ物を探す俺の元へ、それを持ってきた。
「……企画書、もう全部直したのか?」
「いえ、それはまだなんですけど……特集の記事、二週目と三週目の分までできたので」
「早ぇな。……わかった。月曜の朝イチに見る」
「よろしくお願いします」
北見はペコッと頭を下げると自分の席に戻って、荷物をまとめはじめる。
そして上着に袖を通し始めた彼女に、俺は声を掛けた。
「北見。お前、土曜か日曜って――」
「……あの! もう遅いし、お先に失礼します!」
ぴゅう、と風のように編集部から出て行ってしまった北見。
完全に、プライベートな会話はお断り……って感じだな。
晴香の前では余裕ぶって見せたが、そこまであからさまな態度をされると、俺だって多少は傷つく。
ふう、と息をひとつつくと、俺はなくした鍵を探すため自分の汚い机をまた漁りはじめた。