極甘上司に愛されてます
「大人っぽい――か。大人にも色々あるけどね。セクシー小悪魔系とか、クール女子系とか、大人でも甘めなのも可愛いし……」
「……どんなのが好きなんだろうな……」
どんなに振り切ろうとしても頭に思い浮かぶのは、もちろん編集長の顔。
だけど、留美さんの前では言いづらくて、わざと主語を抜かして言った。
……はずなのに。
「ああ! 透吾の趣味ね! それなら任せて、バッチリわかってるから」
「え……や、そういうわけでは!」
「いいのいいの照れなくて。彼氏のために可愛くなろうっていう女の子大好きよ。そのために来てくれたんでしょう?」
「……それは……ちょっと違います」
暗い調子で言った私に、留美さんが目を丸くする。
そう、今日ここへ来たのは、単にネイルを施してもらうためではなくて……
「留美さんに、聞いてもらいたいことがあって……」
頭の上に疑問符を浮かべたような顔をする留美さんに、私はぽつぽつと語り始めた。
編集長が、ある女の人を妊娠させたかもしれなくて、そのせいで私たちの関係がぎくしゃくしていること。
本人は誤解だと言うけれど、それをハッキリさせるのが怖くて、彼と向き合うことから逃げていること……
誰かに相談したくて、でも会社の人には“妊娠”というデリケートかつスキャンダラスな話題を振るのは危険だと思ったから言えなくて。
他に彼を知っている親しい人といえば、妹の佳子もいるけれど、彼女に相談するのはなんか癪だし、話したところでいきつく先は姉妹喧嘩な気がしたから、その思い付きは却下。
……そんな時、思い出したんだ。
編集長のことをよく知っている彼女が、“いつかお店に遊びに来てね”と言ってくれた時のことを。